鏡の中の偽り |
2007年11月25日 22時40分
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ぼくには霊視の能力はない。
そもそも、霊感と言うものが皆無に近い。
だから無理だと言ったのに、ぼくが連れて行かれたそこには、一枚の姿見が置かれていた。
「・・・・・・これが?」
それは、未来を映すと言う噂の、鏡だった。
よくある話、だと思う。夜中の何時に見れば、死ぬ時の顔が映るとか、結婚相手が映るとか。
けれどこの鏡は噂に留まらず、未来かはわからないが、覗いた人の姿以外のものが、映ったらしい。
人々は鏡に幽霊が宿っていると口々に証言した。
本当に未来が映るのか。
その検証に、既に効果が実証されているぼくが呼ばれた。
未来だとしたら、何の、いつの未来か。
同じ力を持つぼくなら、何かを感じ取れるかもしれない――――・・・そんな風に、言われた。
けれど噂の「それ」を目にしても、ぼくは何も感じない。
目立った反応をしないぼくの代わりのように、ぼくを連れてきたボスが、口の端を持ち上げて薄く笑った。
行けと促されて、鏡の前に、立つ。
鏡の中には、左右逆のぼくがいた。
人の未来を視る要領で鏡の未来を覗こうと、束の間目を閉じて意識を切り替える。
相手が動かない鏡だから視えた光景が未来か今かわかり辛くて、鏡に、手を伸ばす。
とん、と。
背中を、押された。
「え・・・・・・・・・」
体勢が崩れて手が鏡に触れる、寸前に。
鏡の中で、立ったままの、ぼくが。
ニィと、笑った。
何か電気が走ったような感覚と派手な音がして、ぼくは膝から崩れ落ちた。
そして。
ボスが、面白そうに、嗤う。
―――――ぼくが覚えているのは、そこまで。
//21歳?
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星降る夜 |
2007年11月24日 23時19分
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降るような星空が、ぼく眼前に広がっていた。
暗い室内。
身体を預けるのは、座り心地のいいリクライニングシート。
ドーム上のホールの中央に、大きな機械。
柔らかな声と優しい調べが、耳に届く。
最近のプラネタリウムはただ東西南北の星を映すだけじゃなく、色々なものを映し出す。
それは物語だったり、綺麗な絵だったり。
ストーリーに沿ってアロマの香りが施される、なんていう上映もあった。
ぼくはそれを、飽きもせず、ずっと見ていた。
外に出れば、本物の星空が頭上に広がっていて。
冷たい空気に、吐いた息が白かった。
冬は星と月が綺麗で、見ていて楽しい。
折りしも今日は、満月だ。
またぼくは、プラネタリウムと同じように、その空をじっと見つめる。
ここに居れば会えることは、視て知っていた。
「不動さん」
声が聞こえて、振り返る。
今日は。
「・・・・・・・・こんばんは」
あなたにさよならを、言いに来た。
//21歳
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一生分の運 |
2007年11月23日 05時57分
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僕は多分あの時、一生分の運を使い果たした。
そう、思う。
だからこんなに、不幸なんだろう。
「・・・・君に会ったことは奇跡のような幸運だったよ」
微笑んだ。
確かに運が良かった。
彼女に会わなかったら、きっと僕は死んでいたから。
でもだから、その後にいいことは何もなかった。
彼女の所為で。
彼女の、所為で。
たまたま、すれ違って。
いきなり「行かないほうがいい」と真剣な目で言われ、なんだこの人と胡乱な目を向けて。
でも数十分後、彼女の言葉の真意はわかった。
彼女に呼び止められなければ、ぼくは玉突き事故に巻き込まれて死んでいた。
轢かれて血を流して、痛いし苦しい最後だっただろう。
僕が相手にしなくても彼女が食い下がってくれたおかげで、僕は間一髪巻き込まれずに済んだ。
それが幸運でなくて、なんだと言うのか。
「――――――でもだからこそ、君が憎い」
それは一生分の幸運。
使い果たして枯渇した運は、僕に不幸ばかりを連れてくる。
例えばその日のすぐ後、空き巣に入られた。
その後は、父が入院して。
彼女には振られてしまい、バイトも首になって。
こんな汚い仕事に、手を出すはめになった。
君があの時、ぼくに会った、その幸運の、所為で!
微笑みは、酷薄な笑みへと、変わる。
「ねぇ。僕にどう、償ってくれるの?」
僕は、君を許さない。
//21歳以降
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それが親心 |
2007年11月22日 21時48分
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子供の幸せを願わない親は居ない。
そんな言葉を見るたびに、思うことがある。
――――――――本当に?
「それが親心というものです」
「そうですよね」
確か話していたのはテレビの中の、有名なコメンテーター。
相槌を打っていたのは、アナウンサーだっただろうか。
よく覚えていないが、とにかく、そんな会話を耳にして。
“親心”。
ぼくは「それ」がよくわからない。
ぼくは「それ」を、知らない。
あの人たちの中にも、そんな心はあったのだろうか。
いつも笑っていた母。
優しい父。
けれどぼくも兄さんも、簡単にお金に変えた人たち。
幻聴が、聞こえる。
歌うような声で。
優しい穏やかな声で。
覚えている、好きだった声で。
「お母さんはね、花梨が大好きよ」
「もちろん、父さんもそうだ」
「だって、あなたは高く売れるんだもの――――――・・・」
首を振る。
違う。あの人たちは、そんなに酷い人たちではなかった。
ただ、普通ではなかっただけで。
ただ、普通とは違っただけで。
ただ。
それが「酷い」と、理解できなかっただけで。
計算尽くではない。
本当に純粋に、ただ、ぼくを売ればお金が手に入ると気付いてしまっただけ。
「大好きよ、花梨」
それは偽りのない本心。
「さようなら、花梨」
これも偽りのない言葉。
「「元気でね」」
これすらも。
紛れもない、真剣なエール。
二人はぼくの幸せを願っていた。
でもぼくを幸せにしてくれる気はなかった。
二人はぼくを好きだった。
でもそれよりも、お金の方が好きだった。
ねぇ。
おやごころ、って、なんですか?
//14歳
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胸の痛みの理由 |
2007年11月21日 23時18分
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締め付けられるように、胸が痛い。
「悲しい」に、似てる痛み。
「苦しい」に、近い痛み。
けれどそのどちらでもない、無視できない痛み。
嘘を、つく。
さぁ、何でもないように、綺麗に笑って?
「大丈夫。なんとも、ないよ」
ごめんなさい。
また一つ、謝罪する。
ぼくの人生は懺悔が多すぎて、一つくらいの謝罪ではあまり意味がないかもしれないけれど。
ごめんなさい。
それでもやっぱり、ぼくは、心の中で謝るのだ。
謝るのは卑怯で、ぼくには謝る資格すらないと解っていても。
謝らずには、いられない。
ごめん、なさい。
けれどあなたは、こちらに近づいては、いけない。
嘘付きで御免なさい。
騙すような形になってしまって、御免なさい。
あなたのためだと言ったら、傲慢だと言われそうだけど。
それでもやっぱり、ぼくは。
「用があるから、行くね?・・・・・・さようなら」
もし、もしも、また、会えたなら。
そしてこんな嘘をついたぼくを、許してくれるなら。
その時は、この嘘を叱ってください。
//23歳
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