終わってないの!? |
2007年11月30日 22時33分
|
「ぁっ・・・!」
瞳の色彩(いろ)が変わっていた。
「・・・っ、あ、ゃ・・・・・・、・・・!」
息が切れる。
いつもは自由になる予知の使用/非使用が、自分の意志と決別していた。
「も、ぉ・・・ぃやぁ・・・っ!!」
悲鳴を上げても、瞳は未来を映す。
目を閉じても、暗やみのなかに画は視えて。
映す。
写す。
移す。
遷す。
―――――止まらない。
「ま、だ・・・・・・」
未来が潰える日が来ない。
さきがなくなる時がない。
壊れない。
終わらない。
能力の長時間行使で急激に体から体力が抜けていく。
未来の情報の多さに脳が悲鳴を上げる。
目が輝き。
瞳がくるりと回る。
相眸が、軋んだ。
膝から崩折れて。
けれど目は見開いたまま。
涙が一筋、頬を流れた。
「ま、だ・・・おわって、ない・・・の!?」
足りないと言うのか。
あれだけ泣いても。
あれだけ嘆いても。
あれだけ壊れても。
あれだけ、視続けても。
喉だけが、意志に従って怨嗟の言葉を絞りだす。
苦痛と。
悲哀と。
後悔と。
未練と。
それから絶望が、声を闇色に塗り潰す。
もう。
視たく、ない――――!
「だれか・・・・・・」
必死に。
懇願する相手を、呼ぶ。
見えない相手に、手を伸ばす。
「だれか・・・ぼくごと、で、いいから」
どうか、この悪夢を終わらせて。
//21歳?(多分
|
コメント(0)|トラックバック(0)|21歳以降|
|
|
世間とのズレ |
2007年11月29日 02時45分
|
「・・・・・・・・え」
目を、瞬いた。
「・・・・・・・・そうなの?」
それは本気で真剣な、心の底からの、言葉だった。
何気ない会話だった。
世間話程度の、特に意味もない。
けれどその最中に、不動花梨は自分の常識とは違ったことを、聞いた。
「・・・・・もう7年も前よ?」
「本好きには世間知らずと言われても仕方ないぞ」
7年前。
そんなに前のことだった。
かの人は、死んだらしい。
「そっか・・・・・・・」
そうなんだ。
遠く、視線を投げる。
哀しいが、涙を流すほどの出来事ではない。
知人ではないけれど知っていた人が、死んでいたという、ただそれだけ。
淋しいとは、思う。
もう。
「じゃあもう、新作は読めないんだね」
軽く息を吐く。
哀しい、淋しい。それ以上に、思ったことは。
―――――残念。
そんな、思考。
幼い子供なりに、好きだった作家だった。
童話作家。知らない人の方が多いかもしれない。
けれど知る人ぞ知る、というか、根強いファンが多いひとだった。
「私も好きだったけれどね」
「ふむ、まぁ、中々不思議な空気を作る話を書く人だったな」
馴染みの古書喫茶に集った、客同士の会話。
何故その作家の話になったかも、よく覚えていない。
著名人の死だったから、ニュースでも軽く話題になったらしい。
すぐに次の話題に流れてしまうほどの、小さなニュース。
けれど知る人にはちゃんと残る、報せ。
7年前。
知れるはずもない、事象。
不動花梨は、軽く、苦笑した。
「ズレてるなぁ・・・・」
知らないことは、あとどれくらい、あるのだろうか。
戻らない歳月を想って、彼女の苦笑は、数秒の憂いへと、変わった。
//21歳
|
コメント(0)|トラックバック(0)|21歳以降|
|
|
土の下 |
2007年11月28日 08時43分
|
夢を見た。
ぼくは丸い月の下、冷たい土に座って必死に土を掘っていた。
爪は剥がれ、土に汚れた指からは血が滲んでいた。
それでもぼくは泣きながら、ずっと、幾つも幾つも穴を掘った。
目が覚めたら、頬に幾つも涙の後が残っていた。
あれはどこだろう。
目覚めの、朦朧とした意識で考える。
冷たい光景だった。
木も何も生えていない、荒涼とした、風景。
生々しい土の感覚が、手に残っているような気さえ、する。
ぼくは何かを言っていたような気もする。
けれどただただ泣いていただけのような気もする。
土の下。
埋まっている、可能性が、あるもの。
何もない風景にたった一つ立っていた大きな十字架が、脳裏に鮮やかに焼きついていた。
埋めようとしていたのか。
掘り出そうとしていたのか。
あれはただの夢だろうか。
それとも未来の光景だろうか。
それとも、ぼくの中にある、風景なのだろうか。
穴を掘る。
穴を、掘る。
幾つも幾つも、穴を。
何かに憑かれたように、ただただ、土を掘る。
それはきっと。
「・・・・起きろ。仕事だ」
ベッドの上でぼくが涙を流していても、彼は何も言わない。
言うわけがない。
生きていれば、否、予知ができれば、それ以外に興味はない。
ぼくは黙って起き上がって、ただこくりと頷いた。
頭の中に、あの風景は消えない。
掘った土の、冷たい感触も。
きっとあの、土の下には。
「行くぞ」
「・・・・はい」
ぼくが今まで犠牲にしてきた人たちの、屍が埋められているのだろう。
//15歳
|
コメント(0)|トラックバック(0)|10〜15歳|
|
|
都 |
2007年11月27日 02時04分
|
彼が「王」なら。
裏の世界に存在する彼の組織が「国」で。
そして此処が、「都」。
ぺたぺたと、裸足で薄暗い廊下を歩く。
ぼくが一日の大半を過ごす部屋のあるこのフロアは、あまり人の出入りがない。
此処は特別区。ぼくは機密。
十字架か錘でしかないその肩書きによって、ぼくはこの都で守られている。
此処は恐ろしい場所。
秩序と平穏をどこかへ置いてきた、混沌の都。
法も常識も此処では通用しない。
ただ浸透されているのは、彼の意思。
完全なる、絶対王政。
「俺の命令に従えないモノは、要らない」
キッパリと、はっきりと。
彼は自分が「ボス」になったその瞬間に、言った。
「無能なモノも要らない。要るのは使えるモノだけだ」
そして同時に、告げる。
どんなに気持ち悪くても。
どんなに目障りに思っても。
どんなに、痛めつけたく思っても。
ぼくの能力を失うかもしれない可能性のあることは、するなと。
「コイツは今一番使える道具だ。復讐でも気晴らしでも、コイツに何かしたいなら―――――」
ぽんと、ぼくの頭に、手を置いて。
笑ってた。
「コイツ以上に使えるモノになれ」
ぼくはその言葉によりこの都で守られている。
「教育」により傷つけられることはあっても、身勝手な暴行は受けたりしない。
大事にする必要はないが。
壊しては意味が無い。
殺したいと正面から言われても。
死にたいのかと脅されても。
ぼくは、それができないことを、知っている。
だから無防備に裸足で歩いていられる。
ぼくの世界はこの廊下と、与えられた部屋だけ。
廊下からは、月が、見えるのだ。
小さく四角く切り取られた黒い空に浮かぶ、月。
部屋からは出てもいいと言われている。
けれど自分の部屋以外入るなとも、言われている。
階段やエレベーターを一人で使うことはできない。
ぺたぺたと歩いていた足を、止める。
窓を、見上げた。
この都は眠らない。
夜はこれから。
動きが増えるのも、これから。
闇が蠢く時間。
こんなにたくさんの、人が居るのに。
月を見上げるのは、ぼく一人。
御免ねと、そんなことを、思った。
折角、綺麗に光っているのにね。
//15歳
|
コメント(0)|トラックバック(0)|10〜15歳|
|
|
旅行の計画 |
2007年11月26日 02時33分
|
旅行の計画がこんなに楽しいものだとは、知らなかった。
ああ、違う。多分、知っていたけど、忘れていた。
「あの、これも持って行っていいかな?」
もしかしたら使うかも。
なんて言ったら、少し笑われた。
そんなに長い旅行じゃない。必要なものだけ持って行けばいいと、そんな風に言われる。
あれもこれもと詰め込んだら、重くなってしまう、と。
それはそうだと思い直して、また鞄の中身を考える。
夢中になって考えていたら傍にいたはずの姿がなくなっていて、我に帰って反省した。
あんまりはしゃいでいたから、呆れられてしまったかもしれない。
今度から気をつけようと苦笑して、座っていた場所から立ち上がる。
そのタイミングで、肩に軽いショールを掛けられた。
振り返れば、そこには探しに行こうと思っていた姿。
軽く瞬く。
ショールは軽いけど、あるととても暖かかった。
「――――・・・ありがとう」
嬉しくなって、微笑んで。
こんなに旅行が楽しみなのは、一緒に行く人がこの人だからというのが大きいのだろうと、そんな風に、思った。
//26歳?(21歳以降)
|
コメント(0)|トラックバック(0)|21歳以降|
|
|