素振り |
2007年11月20日 22時46分
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優しい素振りをしたって、あたしは知ってるんだ。
アレは、『時計』は、悪魔だ。
心を痛めている素振りを見せたって、あたしは信じない。
悪魔はきっと、内心犠牲者を嘲っているに違いない。
簡単に自分の言葉を信じる、このファミリーを笑っているに違いない。
「――――御免なさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
泣いていたって、何とも思わない。
どうせ嘘泣きに決まってる。
「ごめんなさい・・・・・っ!」
こんな声に宿る悲痛な色なんて、装飾で。
「ぼくの、せいで・・・・、・・・・!!」
御免なさい、と。
何度も何度も泣きながら言う子供。
小さな身体に罪の意識と自己嫌悪を詰め込んで、壊れそうになっている、子供。
そんな姿、なんて。
偽りに、決まって。
「――――――いきたい、なんて」
死体の前で、儚く散った命の悔恨を引き受けようとするように、搾り出す、声だって。
嘘に。
「生きたいなんて、思って、ごめん、なさっ・・・!ごめんなさいっ・・・・!!」
―――――――――決まって、いるのに。
寸分違わず頭部を狙っていた銃を下ろす。
はらはらと涙を流し続けていた子供が、虚ろな目でこちらを見やった。
深淵を覗いたような、暗い昏い、悲哀を映した、瞳を。
あたしに向ける。
また涙が一筋、その瞳から零れ落ちた。
「・・・、・・・どうして、うたない、の」
もう。
こんなの、いやなのに。
小さく微かな声は、正真正銘、絶望に彩られた、空虚なもので。
解ってしまう。
否、本当は最初から、解っていた。
許しを請う声も、死者を惜しむ涙も、胸を焦がす後悔も。
この子供は本当に、感じているのだろうと。
素振りでも、偽りでも、なく。
本当に、絶望しているの、だと。
「・・・・・・・・・・・っ・・・・!!!」
銃口を向けていた相手の小さな手を取って、反射的にドアへ向かおうとする。
理屈じゃない。
憎い『時計』。
悪魔。
でも、でも、でも。
泣いている、子供だ。
呆然としていた子供が、驚愕に目を見開いて。
「だめっ・・・・・!」
ぱんっ、と、笑えるような音が、最期。
泣き声は止まず、更なる悲痛な絶叫が空気を裂いた。
//12歳
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弾むように歌う声 |
2007年11月14日 23時03分
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Jingle bells, jingle bells, jingle all the way
O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh―――・・・
ショーウインドウのディスプレイに触発されて、小さく歌を口ずさむ。
ハロウィンが過ぎればすぐにクリスマス。
それが過ぎれば今度はお正月。
商戦は常に一歩先へ進んでいる。
まるでそれは、ぼくの視界のように。
Jingle bells, jingle bells, jingle all the way
O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh
自然と浮かぶのは微笑み。
楽しい歌は、人を楽しい気分にさせる。
クリスマスもお正月も、ぼくにはあまり関係ないけれど。
それでも、心が軽く浮き立っていく。
A day or two ago,I thought I'd take a ride,And soon Miss Fanny Bright
Was seated by my side;
The horse was lean and lank;
Misfortune seemed his lot;
He got into a drifted bank, And we, we got upsot.O
口ずさんでいただけの歌声は徐々に音量が上がり、ぼくは人目も気にせず歌いながらメインストリートを歩く。
人の波を縫えば、何人かがぼくを振り返った。
Jingle bells, jingle bells, jingle all the way!
O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh
Jingle bells, jingle bells, jingle all the way!
O what fun it is to ride In a one-horse open sleigh――――・・・
気分が乗れば足取りも軽く、ショーウインドウの立ち並ぶ通りを軽快に歩いていたぼくの足が、そこで止まる。
コートのポケットの中で、初期設定のままの電子音が鳴り響いた。
「・・・、・・・・残念」
視えてしまった。
この携帯が、鳴る光景が。
「――――・・・Jingle bells, jingle bells, jingle all the way・・・」
無視はできない、電子音。
それでも数回のコールは無視して、ようやくポケットから取り出した。
周囲の喧騒と明るいディスプレイ、「日常」が、急速に色を失い冷えていく。
目を閉じて、細く長く息を吐いた。
吐く息が、白い。
「・・・・・・・・はい」
仕事だ、とは、聞かなくても視なくても、わかる言葉だった。
//21歳
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冷たい |
2007年11月13日 23時12分
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ぼくはその日、生きているということはとても温かいということなのだと、実感した。
血の通った手も、腕も、頬も。
触れればほっと息が漏れるくらい、温かい。
それが当然だと思っていた。
それ以外の温度なんて、知らなかったから。
そっと、もう一度、白い滑らかな頬に触れる。
目を、伏せた。
悲しく、なる。
けれど、涙は出ない。
現実が、酷く遠かった。
「――――――――・・・・つめたい・・・・」
どうしてだろう?
答えは簡単だ。
彼は、死んでしまったから。
もう生きて、いないから。
死ぬって何だろう。
生きているって、何。
動くこと?
話すこと?
笑うこと?
どれも当たりで、どれもハズレ。
死ぬって、冷たくなること。
生きているって、温かいこと。
ひやりとした感覚が指先から身体の芯まで伝わって、ぱっと手を頬から離した。
ああ。
ああ、ああ、ああ。
そうか。
この人は、死んでしまったのだ。
―――――――――ぼくの所為で。
逃げようと。
ぼくに言った、人。
「―――――――――・・・っ!!」
突然現実が戻ってきて、ぼくは悲鳴のような慟哭をあげる。
そして思考は暗転した。
ああ。
ああ、ああ、ああ、ああ。
優しさを与えてくれたのに、ぼくは悲劇しか返せない。
//12歳
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この気持ち、文にしたためて |
2007年11月12日 21時54分
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大好きなあなたへ。
手紙なんて書いたのは久しぶりで、少し緊張してます。
字が下手で読めないなんてことがないといいけど。
書き出しから悩んでしまって、書き終わるまでにどれだけ時間がかかるかが疑問です。
今更こんな手紙を書いたのは、伝えたいことがあったから。
口で言えば早いけど、たまにはいいかなって。
流石に投函はしないので、すぐに読んでもらえるといいなと思ってます。
別に返事は要りません。ぼくが言いたいだけだから。
・・・返事、読めるなら、嬉しいけど。
あなたと会ったのは何年前だっただろう。
ずっと昔だったなら嬉しいのに、まだそう経ってないよね。
あなたと出会えたことは幸運でした。
本当に、ぼくには勿体無いくらいの幸せ。
あなたは多分知ってるかな。
ぼくが、とてもあなたを好きだったこと。
あなたが笑ったら嬉しくて。
あなたに呼ばれたらくすぐったくて。
あなたの行動に、一喜一憂していた。
とても。とても、幸せなこと。
ぼくはあなたが好きです。
だから、言わせて欲しい。
ありがとう。
そして――――――――――――・・・・・
ごめんなさい。
//26歳?(26歳以降)
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ゾロ目 |
2007年11月11日 18時42分
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彼はよくぼくをカジノに連れていった。
それは合法的な場所から、違法な場所まで幾つもの。
「―――――赤の5」
ぼくは賭けたりはしない。
ただ、彼が座った場所の、未来を見て告げるだけ。
ルーレット、ブラックジャック、ポーカー。
一番視易いのはルーレットだったけど、一番未来が変わりやすいのもルーレットだった。
それは解りやすく言えばイカサマで、ぼかして言えばディーラーの腕。
いつも当然のように、彼はスロットなど目もくれず、テーブルに向かう。
当たりすぎてイカサマと呼ばれても、彼はびくともしない。
そして当然、イカサマの証拠はどこにもない。
彼はそれもまた、自分の利益として役立てる。
日本にもカジノはあった。
それは全て裏の、非合法なカジノ。
日本では賭博が認められていないから、お金を賭けていればどこでやっても非合法だ。
欧米と同じように、ルーレット、ブラックジャック、ポーカー。
そして。
「丁、半。どちらかに御賭け下さい」
サイコロ。
これも古き良き、というのだろうか。
江戸から続く、裏の賭け事。
黙っていれば、彼はぼくを見て。
ぼくは口を開く。
「・・・・・、・・・・6と6の、ゾロ目」
今日はどれだけ、勝つのだろうと。
そんなことを、思考の端で思った。
//21歳
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