あなたの一番怖いもの |
2008年2月5日 02時10分
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ぼくが一番怖いもの。それは。
「――――・・・花梨」
それは、声。
この男(ひと)の、声だ。
びくりと肩が跳ねる。
振り返りたくなくて自分で自分の腕を掴んで、ぎゅっと握った。
それでも震えは納まらない。
「花梨」
振り向きたくない。
――――――振り向けない。
後ろから髪を引かれて、頭皮が悲鳴を上げた。
反射的に、顎が持ち上がる。
声の主がぼくの前に姿を表して、視界に映った。
目を、覗き込まれる。
この、目も。
怖い。
この、人は。
こわい、ひと。
「呼んだら答えろと、教えなかったか?」
恐怖が心を縛る。
歯向かえない。
逆らえない。
「っ・・・・はい・・・」
きっと永久に、慣れることは、ない。
//13歳
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鬼は逃げた? |
2008年2月4日 02時19分
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「鬼は、逃げるのかな」
ふと思いついて、そう、聞いた。
豆を撒かれて、外へと追いやられて。
言われるがままに、逃げるのだろうか。
節分で追い払われる「魔」の象徴。
古くから病気や災厄の元とされる、見えないモノ。
けれど。
逃げなくてはいけない何かを、彼らはしたのだろうか。
病気の原因はウイルスで。
災厄は鬼だけの所為じゃない。
全ての罪を被せて、追い払い、安堵して。
「・・・・何処に逃げるんだろう」
迎えてくれる場所はあるのだろうか。
逃げ帰る場所は、あるのだろうか。
そんなことを、思う。
「こんなこと考えるなんて、変かな?」
苦笑したら、「そんなことはない」と、言ってくれた。
ぼくはそれが嬉しくて、ほっとする。
ぼくの予知の所為で犠牲になった人は沢山居る。
ぼくが予知をしたから、死んでしまった人が、沢山居る。
そして全てをぼくの予知の所為にして逃げた人も、沢山、居る。
ぼくは異端の「バケモノ」だから、多くに蔑まれ、疎まれながら、利用された。
「お前があんなことを、言わなければ」――――・・・それはとても、よく言われた言葉。
ぼくは否定しなかった。
否定しても無駄だと知っていたし、それに。
それでその人が楽になれるなら、それでいいと思った。
それと半数以上は、その言葉が事実でもあった。
「鬼は外」と、言われて。
鬼は無事、逃げたのだろうか。
逃げ帰るべき場所に、帰れたのだろうか。
逃げ切れずに囚われていないといい、と、思う。
//21歳
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食べ物を粗末にしちゃ駄目 |
2008年2月3日 20時36分
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「鬼は、そと。福は、うち」
神社の豆まきを見て、少女はとても感動していた。
彼女には、豆が撒かれるごとに空気が変わっていくことがわかった。
宮司が文言を口にするたびに、「何か」がなくなっていくことがわかった。
凄いと思った。
帰りに大豆の入った小さな袋を貰って、少女は家路を急ぐ。
家では自分が、宮司の代わりをしようと、幼い義務感を抱いて。
「おにはーそと、ふくはうち!」
貰ってきた豆を撒く。
あまり外には飛ばなかったけど、それでも少しは効果があったように少女には思えた。
神社のように、明確にはわからなかった、けど。
それでも少女は満足だった。
帰宅した少女の母親は、散らばった大豆を見て、首を傾げる。
「・・・花梨?」
少女は手の掛からない子供だった。
悪戯も滅多にしないし、聞き分けのいい、楽な子供。
「お母さん!」
「花梨がやったの?」
「うん!」
「駄目じゃない。食べ物を粗末にしちゃ」
ぱちんと。
少女の中の小さな正義感と満足感が、弾けて消えた。
「・・・、・・・ごめんなさい」
少女は悲しげに、そう、言った。
//7歳
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目から鱗が落ちた |
2008年2月2日 01時13分
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「――――――、え」
耳に入った声に、つい。
目を見開いて、手を止めた。
振り返る。
微笑んだその人は、優しい目のまま、はっきりと頷いた。
「・・・・・・ほんとうに?」
反射的に、嘘だ、と思う。
そんなことあるはずがないと。
だってぼくは。
たくさんの人を、蹴落として、不幸にして、生きてきたのに。
たくさんの、人を。
犠牲に生き長らえてきたのに。
「誰でも。生きている限り、誰でも。幸せになりたいと思っていいのよ。幸せになっていい。当たり前じゃない」
当たり前。
当然だと断言され、目から鱗が落ちたような気がした。
生きているかぎり、誰でも。
ぼくでも。
幸せになりたいと、思っていい?
「・・・・・・、・・・本当に。いいのかな」
今度も彼女は頷いてくれて。
胸が熱くなる。
見ている風景が歪んで、ぎゅっと目を瞑った。
「・・・ら、なら、ぼく」
彼女に倣って、微笑みを浮かべる。
暫らくぶりの微笑は、少し歪んだ。
「なら、ぼく、結婚したい、な。それで、子供を生みたい。それで、それでさ、その子を、幸せにしてあげたい」
望んでも、いいのかな。
目の前の彼女は、笑って。
本当に嬉しそうに、笑って。
「いいのよ」
そう言った。
嬉しい。
うれしい。
嬉しかった。
だから次に視えた未来に、血の気が引いた。
叫ぶ。
嫌だ。
待って。
止めて。
お願い。
お願いだから――――・・・!
戸惑う彼女の後ろに、悪夢のような、影が差した。
「困るな。俺のモノに余計なことを教えないでくれないか」
それが、初めてぼくを助けようとしてくれたた人の、記憶。
//12歳
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人の夢は儚いの? |
2008年2月1日 23時47分
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夢には力があると、思っていたことがあった。
人は強く、夢を武器に戦える、と。
思っていたことが、あった。
それは幻想だと、思い知ったけれど。
人の夢、と書いて、「はかない」と読む。
触れれば壊れてしまう。
乱暴に扱えば、すぐに。
ガラスよりも脆い、それ。
壊すのは簡単だと、教えられた。
「残念だったな」
笑うことが出来るのは、一人だけ。
ああ今日も、此処では夢の壊れる音がする。
//14歳
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