安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

  新着アーカイブ  
ゾロ目[2
 (2010/11/11 12:51)
マスコット
 (2008/5/1 19:04)
多けりゃ良いってものじゃない
 (2008/4/30 18:51)
一生懸命
 (2008/4/25 18:53)
世界を見下ろす丘
 (2008/4/23 18:54)

  新着コメント  
新着コメントはありません

  ブログ内検索  

  カテゴリー  
最初に/設定(1)
21歳以降(70)
16〜20歳(35)
10〜15歳(29)
0〜9歳(6)
その他(18)

  2024年11月  
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

  月別アーカイブ  
2010年11月(1)
2008年05月(1)
2008年04月(12)
2008年02月(16)
2008年01月(5)
2007年12月(25)
2007年11月(25)
2007年10月(31)
2007年09月(30)
2007年08月(13)

Dear
気分転換と暇つぶしで買い物に出かけて、文具屋さんで綺麗な便箋と封筒を見つけた。
手触りのいい紙の、邪魔ではない程度に精緻な柄が入った揃いのレターセット。
少し探すと蝋で封をする道具も近くにあって、つい、一式買ってしまった。
此処まで揃えたのだから、と、書くものもボールペンでは味気ないので万年筆を用意して。

便箋の最初の行に「Dear」と書き込んで、そのまま手が止まった。

親愛なる――――・・・。

その先に続く名詞が、幾ら考えても思い浮かばなかった。

苦笑する。

綺麗な便箋と、封筒。
封をするための蝋に、蝋判。
手紙を書く、万年筆。

手紙を出すための準備は綺麗に整ったのに、出すことが出来ない。
出す相手が、ぼくにはいない。

何で気付かなかったのだろう。
買うときに、気付いても良さそうだ。
自由に一人で買い物ができるだけで嬉しくて、はしゃいで居ただろうか。
少しは慣れたと、思っていたのに。

「・・・勿体無いなぁ・・・」

小さく息を吐いて、万年筆を仕舞おうとして。
そこで、気分を変えてもう一度便箋に向き直った。

「Dear」の次に、字を書き足す。





――――親愛なる、誰かへ。





手紙はそう、書き始めた。
結局出すことはできなかったけど。
その手紙は今でも、机の引き出しに大事に仕舞ってある。









//20歳

続きを読む...
コメント(0)トラックバック(0)16〜20歳
 


体力自慢
「うわー・・・・」

そう言ったきり、言葉が途切れた。

どうしよう、と、思う。
この目の前の、見るからに体力自慢筋肉自慢の、脳味噌まで筋肉で出来ていそうな男。
予知は働かなかったから、危険ではない、と、思うけど。
不意に起こる予知は万能ではないから、わからない。
ただ、大体危険が起こる前にはぼくの意思とは関係なしに予知が起こるという、ただそれだけの確率論。

・・・というか、本当に。

「・・・・何か、用・・・かな」

ぼくにどうしろと。

職業はボディービルダーかプロレスラーかと聞きたくなる容貌の男は、そのぼくの声に無造作にぼくを見下ろす。
細い路地に立ち塞がる巨体は、なんて言うかはっきり言って。

「邪魔なんだけど」

服が窮屈そうだと、つい、思う。
だからって脱がれても困るけど。
感想は尽きない。
少しも羨ましくないとは言わない。ぼくももう少し力があれば、とか、筋肉でなくても、何かを変えられるくらいの武力があればとは、いつも思う。
合気道の教室にでも通ってみようかと、目論んではいたりもするし。
けれど現時点で体力勝負及び武力勝負を挑まれたら、ぼくはあっさりと負ける。
もう予測でもなんでもなく、それは確実な結論。
今までの人生で何をしてきたのかと、自嘲するばかりだ。

けれどそう、ぼくは知っている。
知ってしまって、いる。

幾ら分厚い筋肉が体を覆っていても、幾ら格闘に優れていても。
幾ら、体力が底なしでも。

「・・・・何をぼーっと立ってる?死にたいのか、花梨」

ぱしゅ、という、音のなり損ないのような、軽い音で。
指をほんの少し、動かすだけで。

脳を至近距離で撃ち抜かれれば、人は死ぬのだ。

何度「死」を見せられても変わらない、吐き気と悲哀と罪悪感。
血の臭いには慣れないし、血の赤は恐ろしい。
そしてこの男への、恐怖感は増す。

つい今の今まで目の前に立ってぼくの首に手を伸ばしていた筋肉質の男が、ただの筋肉になって地に伏せる。
その姿と赤い色から目を逸らしたら、男の手に握られた黒光りする凶器が視界に映った。
それも見たくなかったので、また目を、逸らす。

「油断するな。お前に死なれると俺が困るんだよ」

日本は平穏な国だと、誰が言ったのだろう。
平穏な国など、この世のどこにあるのだろう。
どこの国にも濃い闇は存在し、この男が身の置き場に困ることはない。
どこの国も。
一歩踏み入れば、渦巻くのは狂気と策略。

「お前の使い道はまだ色々ある」

サイレンサーでは消しきれない硝煙の臭いが、鼻についた。

夕暮れ時の閑静な住宅街の、小さな細い路地で。
瞬きする間に行われた殺人は、誰にも知らずに処理される。
目撃者はいないし、もし居たら死んだ男と同じ道を辿る。

涙は出ない。

ぼくはきっと、もう普通の人とは違うんだろう。

思うのは、ただ二つ。

――――――ごめんなさい。そして、さようなら。










//21歳
コメント(0)トラックバック(0)21歳以降
 


解けたリボン
肌寒さを感じる朝の時間に、神社に足を向けた。
最近、よく来る神社。
清廉な空気は何時でも変わらないけど、寒さのためか朝は特に清い気がする。

誰にも会わなくていい。
ただ、仕事の前に此処に来ると、頑張れる気がした。
本当は。
誰かに、会いたいのかもしれないけど。
会ったら助けを求めてしまいそうだし、やはり会わないほうがいい。

お賽銭を入れて、拍手を打って、礼をして。
朝だから、鈴は鳴らさずに終らせる。
そしてくるりと振り返った境内の、石畳の上で。

何処かから解けた、綺麗なリボンが眼に入った。

来た時は気付かなかった。
可愛い、暖かい秋色のリボン。
拾ってみて、誰のだろうと首を傾げた。

一瞬脳内に長い髪の少女が浮かんで、その想像はそのまま無意識にその少女の予知に繋がる。
境内から少し離れた御神木付近を、大きな犬と一緒に何かを探している、女の子。

何分後の未来かはわからない。
何時間後、何秒後かもしれない。
探しているものがこのリボンとも限らない。
けど。

ぼくの足は、自然と御神木の方へと向いた。

注連縄の掛かった、立派な御神木。
まだ人影は一つもなく、木の葉が風に擦られる音がさらさらと響いていて。
素敵な樹だと、なんとなくそう思った。
手にしたリボンに目をやる。
何処にあれば見つかり易いかと少し考えて、女の子の目線に合いそうな高さの枝の先に、緩く結んだ。

「これで、大丈夫かな・・・」

逆に見つかり難くなっていたらどうしようと、少し考える。
でもこれくらいしか、ぼくにはできそうもなかった。

ふと思いつきで、御神木に手を添える。

「――――・・・無事見つかりますように」

お願いしますと、小さく祈った。

解けたリボン。
無事もとの場所に、戻れればいい。

あのリボンには、還れる場所が、あるのだから。









//21歳
コメント(0)トラックバック(0)21歳以降
 


通じない思い
―――――届かない。

「・・・、・・・だから、ぼくね。お母さんと、お父さんが大好き。ずっと一緒に居たいな」

何度言葉を重ねても、何度態度に示しても。

この思いは、彼にも彼女にも通じない。

「どうした?いきなり」
「私もあなたが好きよ、花梨」

どうしてだろう。
どうしてなのだろう。

何度声を大にして「行きたくない」と叫んでも、笑ってするりとかわされる。
大好きだと言っても、頷くばかり。

ねぇ、どうして?

「さようなら、花梨」

――――――お母さん。お父さん。










かりんは、いらないの?









・・・・目が、覚めて。

頬に零れる涙が、冷たくて淋しくて哀しかった。

実感する。
確認、する。

ああ、ぼくは。

誰にも必要のない、モノ。









//21歳

続きを読む...
コメント(0)トラックバック(0)21歳以降
 


無茶
「無茶だ!」

耳にそんな声が入る。
けれどぼくは、振り返りも足を止めもしなかった。

何が無茶なのか。

確かにぼくは弱いし運動神経も人並みだし、何もできない。
けれどだからと言って、何もしないで震えていていいはずがない。

だってぼくは、知っているのだ。
知らないなら何もしなくていいと言う訳ではない。けど、知っていて何もしないのは、やはり罪だ。
ぼくは、知っている。
だから、逃げてはいけない。

感覚を研ぎ澄ませ。
さぁ―――――ぼくには、わかるはずだ。

立ち上がって、真っ直ぐ進む。
一歩左に。
次は右。
次は更に右で、そこから前にちょっと跳ぶ。
ぼくの動作に合わせるように、ぱんぱんぱん、と、続けて乾いた音が鳴った。
否、違う。
ぼくがその音に合わせて、銃撃の来る場所を予知し、その場所を避けて移動した。

銃を持つ男が、ぼくの動きの意味に気付いて、青褪めて一歩後ずさった。
無意識下の行動。
表情から見えるのは、明確な恐怖。

予知の精度は良好。
現実の光景と予知の光景が被さるように混ざり合って、それは不思議な光景だった。

自分の眼が、青く光っているのが、わかる。

「・・・あなたの攻撃は、ぼくには当たらない」

往生際が悪く、というよりも恐怖に駆られて無差別に、また銃声が響いた。

軌跡はわかっていたけど避け損ねて、軽く髪が切れる。
軽く自嘲する。ああやはり、ぼくは弱い。
それでもやはり、男の恐怖は変わらなかった。

人外のものを目の当たりにした時の、得体の知れない恐怖。

ぼくはあまり快くないそれを、利用する。

「――――――その子を離して」

そうでもなければ、ぼくは勝てない。

男と同じ恐怖を感じている、男の隣で手錠で戒められた少女が助けられるなら、もう何でもよかった。









//21歳
コメント(0)トラックバック(0)21歳以降
 



< 次のページ        前のページ >