安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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無茶
「無茶だ!」

耳にそんな声が入る。
けれどぼくは、振り返りも足を止めもしなかった。

何が無茶なのか。

確かにぼくは弱いし運動神経も人並みだし、何もできない。
けれどだからと言って、何もしないで震えていていいはずがない。

だってぼくは、知っているのだ。
知らないなら何もしなくていいと言う訳ではない。けど、知っていて何もしないのは、やはり罪だ。
ぼくは、知っている。
だから、逃げてはいけない。

感覚を研ぎ澄ませ。
さぁ―――――ぼくには、わかるはずだ。

立ち上がって、真っ直ぐ進む。
一歩左に。
次は右。
次は更に右で、そこから前にちょっと跳ぶ。
ぼくの動作に合わせるように、ぱんぱんぱん、と、続けて乾いた音が鳴った。
否、違う。
ぼくがその音に合わせて、銃撃の来る場所を予知し、その場所を避けて移動した。

銃を持つ男が、ぼくの動きの意味に気付いて、青褪めて一歩後ずさった。
無意識下の行動。
表情から見えるのは、明確な恐怖。

予知の精度は良好。
現実の光景と予知の光景が被さるように混ざり合って、それは不思議な光景だった。

自分の眼が、青く光っているのが、わかる。

「・・・あなたの攻撃は、ぼくには当たらない」

往生際が悪く、というよりも恐怖に駆られて無差別に、また銃声が響いた。

軌跡はわかっていたけど避け損ねて、軽く髪が切れる。
軽く自嘲する。ああやはり、ぼくは弱い。
それでもやはり、男の恐怖は変わらなかった。

人外のものを目の当たりにした時の、得体の知れない恐怖。

ぼくはあまり快くないそれを、利用する。

「――――――その子を離して」

そうでもなければ、ぼくは勝てない。

男と同じ恐怖を感じている、男の隣で手錠で戒められた少女が助けられるなら、もう何でもよかった。









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