全ての恋人たちに贈る |
2007年12月24日 10時49分
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町は赤と緑のクリスマスカラーが彩って、ネオンではない光が至る所に溢れる。
可愛らしい形のモニュメントが並んで、赤と白の服を着た人もちらほら見える。
そんな日。
今日は、クリスマスイヴ。
仲睦まじく寄り添って歩く恋人たち。
ケーキ屋さんの前で笑顔を零す母子。
片手に包みを持って、急ぐ人。
街が「幸せ」に溢れている。
街角で風景に埋没しながら、ゆっくりと目を閉じる。
人通りの多い通りは、ぼくには幾つもの風景が重なって見える。
その風景は、目を閉じても消えない。
見えるのは、通り過ぎる誰かの断片的な未来。
近いもの遠いもの、暖かいもの綺麗なもの。
判断できるほどちゃんとは見えない。
ただなんとなく、そんなイメージを感じる画たち。
暫く経ってから目を開けて、上を見上げた。
漠然と、雪が降ればいいと思う。
意識を凝らせばこの場所の未来は見える。
暗い空からちらほらと降る、白い、花。
ああ。
自然、微笑んだ。
それは全ての恋人たちに贈る、空からのプレゼント。
「・・・・メリー、クリスマス」
するりと口から言葉が零れる。
雪はぼくが降らせたわけではないけれど。
なんとなく、嬉しい気分になった。
//21歳
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雪の結晶 |
2007年12月23日 05時30分
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ぼくは普段、暇さえあれば外に居る。
特に目的もなく、ふらふらと。
朝でも昼でも夜でも、関係なく。
寒くても、暑くても。
「外」は。
ぼくにとって、「自由」の象徴だから。
自分で借りているアパートの一室も、嫌いではない。
あまり個性のない部屋だけど、少しずつ、ぼくの「色」が見える部屋には、なってきたから。
本当はもっとインテリアがあればいいのだけど、買っていないのだから仕方がない。
「自由」であるのにあまり物を買えないのは、ぼくが弱いから。
物を買えば、執着が出来て。
愛着が、沸く。
それが恐い。
大切なものが、増えることが、恐い。
だって、破壊は一瞬だ。
あの人が少し気分を損ねれば、あっというまに、消えてしまう。
物でも。
人でも。
どちらにしろ、関係ない。
あの人は・・・・ボスは、恐い、人だから。
それはぼくに刻み込まれた真実。
何度も何度も「教えられた」、コト。
だから部屋の中が淋しいのは仕方がない。
誰の所為でもない、ぼくの、所為。
それでもインテリアを見るのは好きで、服やアクセサリーだって、見ているのはとても楽しくて。
例え窓越しであっても、何処か心躍るものだ。
ぼくも、一応、女の子、なのだし。
可笑しくはないと、思う。
否。
思ってから、苦笑した。
もう。
「女の子」という、年ではない。
その年代は、何処かへ行ってしまった。
「あ・・・・・・・」
ショウウインドウの中央に、小さな銀のアクセサリ。
雪の結晶を象った、プラチナ。
小さな水色の宝石も一緒に鎖に通されている、ネックレス。
目が留まって、そしてその場に立ち止まる。
ついガラス窓に手を付いて、じっと覗き込んだ。
「・・・・・・可愛いな」
実はぼくはまだ、本物の雪を見た事がない。
10歳までに居た場所にはあまり雪が降らなかったし、それ以降、「仕事」で外に「持っていかれた」ときも、雪は降っていなかったから。
映像では見たことあるし、イメージは、わかるけど。
本当にこんな形をしているのだろうかと、つい思う。
これを見たことのある人は、あまり居ないのだろうけど。
どうしてもそれが気に入ってしまって、買おうかどうか、踏ん切りがつかないながらも店の扉に手を伸ばして。
取っ手を引こうとした瞬間に、コートのポケットから甲高い機械音が鳴り響いた。
―――――――――・・・・
店の取っ手から、手を、離す。
ショウウインドウを一瞥して、軽く目を伏せて。
それからくるりと、踵を返した。
電話に、出る。
「・・・・はい」
もう一度も、振り返りはしなかった。
//21歳
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どんな卑怯な手を使っても |
2007年12月22日 18時02分
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「このっ・・・卑怯者が・・・!!」
それが、俺が撃った男の最後の言葉だった。
つまらない台詞だと思う。
卑怯の何が悪い?
正攻法で行かなければならない意味はどこだ。
察せなかった己を呪え。
色々言い返せる言葉はあったが、あえて何も言わない。
言う意味はない。
どうせもう、冷たくなっている。
死体をそのままにドアへ向かえば、入り口に立っていた男が跪く。
感慨もなく見下ろして、視線だけで発言を促した。
男は淡々と、頭を垂れる。
この男は、それなりに使える道具だった。
「もとより私の『持ち主』は貴方ですが、今日からは『ボス』になられたので、一応改めさせて頂こうかと」
どうでもいい。
そういえば、そうですかと返事を返し、男は立ち上がる。
これでこのファミリーは俺の物だ。
だが、今のままでは使えない道具が多すぎる。
「無駄なことをしている暇があるなら、動け」
「はい。まずは誰を」
此処で「何を」と問わないところが、コレの使える所なんだが。
他はほとんどが、そうはいかない。
無能で無意味な烏合の衆。
考えようによっては、鳥よりもたちが悪い。食えるわけでもない。
塵か埃。
ゴミを捨てていかなくては、鬱陶しくて仕方がない。
「まずはキースとグレイン。その部下数名」
「末端は私の判断で構いませんか?」
「末端はいい。どうせ邪魔にすらならない」
「わかりました」
「上」へ上ると俺は決めた。
俺の考える「上」は、こんなところではない。
まぁ頂点に上ったからと言って、何があるわけでもないが。
こうでもしていなければ、この世はあまりにも暇すぎる。
これから更に、俺は高みを踏む。
そう、それこそ。
どんな卑怯な手を、使っても。
//樹 閃月
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静寂 |
2007年12月21日 10時28分
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耳が痛いほどの静寂。
まるで世界にぼくだけが取り残されたような、無音。
自分の吐息や心臓の音すら、聞こえない。
静かに、静かに。
朽ちていく。
此処は何処だったろう。
ぼくは何だっただろう。
大切なものは、何かあった?
思考も静寂に溶けていく。
侵食するように、蹂躙するように、無という有が身体に染み込んでぼくを分解していく。
ぼくは。
何か望んでいた、気がする。
ぼくは。
・・・ぼくは?
わたし、は。
愚かしく浅ましくも、生きて、いたかった。
死にたくなかった。
今なら、笑える。
声も息も、音にならずに静寂に溶けたけれど。
そう。
生きている資格なんて、わたしにはなかった。
唇が、動く。
紡いだのは誰に言うわけでもなく、自分に言い聞かせるような、言葉。
声帯が壊れているのか、声は、やはり出なかった。
だいじょうぶ。
だいじなものは、みんなおいてきたから。
//27歳以降?とか。
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幻に惑わされ |
2007年12月20日 03時16分
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追いかけていた。
半透明に見えるその背中。
どんどん遠ざかっていくその人を、ずっと追いかけていた。
「―――――・・・・さん・・・!」
呼ぶ。
走りながら声を絞り出しても、その人は振り返らない。
背中との距離は、一向に縮まらない。
「・・・・・い、さ―――――――」
ぼくと同じ色の髪が、軽く揺れる。
ぼくより高い背の、少年。
「にいさんっ!」
待って。
行かないで。
ぼくを、一緒に―――――・・・
何かに足を取られて躓いて、ぼくが身動きできなくなった、その瞬間。
追っていた人は振り返って、そして、「笑った」。
―――――あ。
それは死者への冒涜。
それは弔意の利用。
愛しさも繋がりも悲哀も望みも、全てを馬鹿にした、行為。
罠に掛かったことを、確信した。
涙が頬を伝う。
悔しかった。
哀しかった。
苦しかった。
だってやっと、それが幽霊でも、ずっと会いたいと!
暴力的なまでに、その心が踏みにじられたのを感じる。
心が血を流したように、悲鳴を上げた。
―――――兄、さん。
呼び声は、空虚に響いて。
そして消えた。
ぼくには霊視の力はない。
会えるはずが、ないのだ。
すべてはまぼろし。
//22歳(頃?)
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