安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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均一セール
機動隊とクーデターの武力衝突。
東南アジアで起きた、暴動。
外国の、遠い出来事。
けれどぼくは、知っている。

この暴動の脚本を書き裏で糸を引いたのは、この人だ。

その国の人たちは真剣に、国を憂いていたのに。
生半可な気持ちで、操っていいものではないのに。
この人は、「金になる」というただ一事で、あの人たちを利用した。

銃弾と銃器をばら撒き。
甘い言葉と罠を含んだ策を吹き込み。
死地へと躍らせた。

この人は、恐い、人。

知っていたつもりだったけど、認識が甘かったと悟る。

この人は。


ほんとうに、人間だろうか?


能力的にはぼくの方がよほど化け物じみているのは認める。
けれどこの人の、この思考。
人は此処まで完全に、無慈悲になれる生き物なのだろうか。

戦慄、した。

この人は、「無事」戦端が開かれたという報せを聞き、楽しそうに、笑っって。
言ったのだ。

「どこかの均一セール並に銃弾も銃器もばら撒いたんだ。始まって、精々派手に死んでくれないと困る」

命を。
何とも思っていない、言葉。

脳髄まで、刻み込まれる。
それは恐怖。



ああやはり。
この人はとても、恐い人だ。









//17歳
コメント(0)トラックバック(0)16〜20歳
 


誰もいない、私だけの世界
暗闇に、あの子だけが見える。
その視界は、私だけの世界。

「ひーちゃんってばー」

そんな声が聞こえて、視界を変える。
あの子が消えて、周囲の風景がガラスを一枚隔てて見るように広がった。
目隠しをしていても、不自由はない。

「ひーちゃんー」
「・・・・・何だ?」

答えれば、隣に来ていた一人の神が何やら驚いた顔をする。
神々の中で喜怒哀楽を作るのに一番長けているのは、この男だろうと漠然と思った。

「あ、聞こえてた?」

聞こえてないつもりなら、何故呼ぶのか。
この男は、謎だ。

「何か用か」
「んー、何してるのかなって?」
「あの子を見てた」
「また?」
「また」

私が何をしているか、そんなことを聞きに来たのだろうか、この男は。

「・・それで、用は」
「ない」

暇なことだ、と、思う。
思ってから、己も同じかと内心で嘲笑した。
神など皆、暇なものだ。
何もできることなどないのだから。

用がないならもういいかと、あっさり思考から隣の存在を掻き消す。
視界もまた「普通」に戻せば、暗闇にぼんやりとあの子が見えた。

あの子は幸せとは言いがたい人生を送っていた。
哀れなことだと、思う。
視界に移るあの子は、大抵泣いている。
望まないことをさせられて、苦しんで。
自分を卑下し、存在を憎むことすらして。
けれど、あの子は人を嫌わない。
賞賛に値する。

あの子は自分を責める。自分を笑う。自分を、嫌う。
だが人を嫌わない。世界を、嫌わない。
あの子にとって世界はいつも美しい。
人は皆、愛しい。
驚嘆に値する。

だがそれが、あの子を苦しめているのだけど。

「ねー、ひーちゃんー?」

あの子が泣いている。
私はただ、私だけの世界で、それを見ている。
見ている、だけ。
私以外誰も居ない、暗闇の世界で。

「楽しい?」

よく、わからない。

反射的に、心中で答えた。









//カミサマ
コメント(0)トラックバック(0)その他
 


抱擁
「暗闇から、抜けたくはないですか?」

優しく問いかける声に、ぎゅっと手に力を入れた。
掌に爪が食い込むほど強く、手を握る。

ぼくには、無理なこと。
自由ではない、自由。
会うのも止めなければいけないと、思い続けていて。
迷惑をかけてはいけないけど、でも、ずるずると会いに行ってしまっていて。
もう、止めなければと。
思っていた。
思っていて、でも、ぼくは来てしまって。
そして彼は言ってくれたのだ。

「手を差し伸べたのは不動さんなのに、その手を引っ込めるんですか?」

だって思ってなかったのだ。
知らなかった。
そんな人が居るなんて、まさか。

こんな得体の知れないぼくを、見捨てない優しい人が、居るなんて。

優しすぎて泣きたくなる。
優しさがナイフのように心を抉る。

ぼくはきっと彼を不幸にする。
彼は優しくしてくれるのに、ぼくは何も返せない。
破滅を連れて来る、だけ。
やっぱりきっと来てはいけなかった。
会ってはいけなかった。
言っては、いけなかった。

後悔ばかりが押し寄せて来て、瞳から涙が零れた。

泣きながら、首を、振る。

すぐに手で顔を覆ったけれど、涙は止まってくれなかった。

いけない。
いけない。
いけない。

それは言ってはいけないこと。
それは思ってはいけないこと。
それは考えては、いけないこと。

泣くだけで何も言えないぼくに、彼は困ったように笑って。

ぼくの髪を撫で、そして子供にするように、抱き締めて背中を撫でてくれた。

暖かい人。
優しい人。
優しすぎる、人。

言ってはいけない。

言ったら。
だって言ったら、きっと。

彼はやろうとしてしまうから。

頭ではわかってる。
最良の選択。
最高の行動。
なのになのになのに、ぼくはいつも失敗を繰り返す。

「・・・・っ、ぅ、ひっ・・・く・・・・ぅ・・・・!」

嗚咽がどんどん止められなくなって、暖かさは涙を増加させて。

ぼろぼろと涙を流しながら、ぼくは。





「・・・・・・・たすけて・・・っ!」





言ってはいけない言葉を、言った。

ぼくはいつも。
最低の過ちを、繰り返す。









//21歳?(多分)
コメント(0)トラックバック(0)21歳以降
 


一組の手袋
男物の手袋を、一組、買った。

最初に買ったのは毛糸だった。
手芸道具を売っている店に行けば色々な毛糸があって、少し迷った。
毛糸とイメージするものはそんなになかったので、意外に思う。
色は青み掛かった灰色。決めた理由は、綺麗な色だと思ったから。
そして一緒に編み棒や本なんかも買って、数日毛糸と格闘した。
仕事で呼び出される以外は部屋に篭って、ずっと頑張って。
出来上がったときは、とても嬉しかった。
けど。
出来上がったものを見て、苦笑した。

最初から手袋に挑戦したのが間違いだったのかもしれない。
マフラーとか、そういうのなら、まだ、きっと。

ぼくは編み上がった一組の手袋を、引き出しにしまった。

不格好で、網目はずれているし、あまり暖かくなさそうで。
それなら、きっと既製品の方がいい。
すぐに逃げるのは悪い癖だと思ったけど、簡単に変えられることではなかった。

彼なら、どんなに不恰好でも、何も言わずに受け取ってくれるとは、思うけど。
ぼくが、申し訳ない気分になってしまうと思うから。

贈り物を作るのも、選ぶのも。
何年ぶりだろうと思う。
心が揺れて、そして弾んだ。

もうすぐ、クリスマス。

あまりやらないと、言っていたけど。
受け取ってくれるだろうかと、買った手袋をラッピングして微笑んだ。









//21歳
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新たな発見
小さなお地蔵さんを見つけた。

今まで何度かその道は通っていたけど、お地蔵さんがあったとは知らなくて。
つい、立ち止まる。
石で出来た丸い頭。
陽に焼けて色褪せた、赤い前掛け。
大福が二つ供えてあって、ちゃんと見ている人かいるんだと、少し微笑ましい気分になる。
しゃがんで手を合わせて、暫らくそのお地蔵さんを眺めてしまった。

なんだか嬉しくなる。

昨日は知らなかったこと。
新しい発見。


世界は未知に溢れている。
世界はこんなにも、愛しい。

昨日とは違う今日。
今日とは違う明日。
変わり続けること。
変わらずあり続けること。

全てを内包して、世界は在る。

ぼくは、この世界が好きだ。

・・・・・・たとえ、もし。

世界はぼくを、好きでなくても。









//21歳
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