均一セール |
2007年12月19日 23時40分
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機動隊とクーデターの武力衝突。
東南アジアで起きた、暴動。
外国の、遠い出来事。
けれどぼくは、知っている。
この暴動の脚本を書き裏で糸を引いたのは、この人だ。
その国の人たちは真剣に、国を憂いていたのに。
生半可な気持ちで、操っていいものではないのに。
この人は、「金になる」というただ一事で、あの人たちを利用した。
銃弾と銃器をばら撒き。
甘い言葉と罠を含んだ策を吹き込み。
死地へと躍らせた。
この人は、恐い、人。
知っていたつもりだったけど、認識が甘かったと悟る。
この人は。
ほんとうに、人間だろうか?
能力的にはぼくの方がよほど化け物じみているのは認める。
けれどこの人の、この思考。
人は此処まで完全に、無慈悲になれる生き物なのだろうか。
戦慄、した。
この人は、「無事」戦端が開かれたという報せを聞き、楽しそうに、笑っって。
言ったのだ。
「どこかの均一セール並に銃弾も銃器もばら撒いたんだ。始まって、精々派手に死んでくれないと困る」
命を。
何とも思っていない、言葉。
脳髄まで、刻み込まれる。
それは恐怖。
ああやはり。
この人はとても、恐い人だ。
//17歳
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誰もいない、私だけの世界 |
2007年12月18日 23時34分
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暗闇に、あの子だけが見える。
その視界は、私だけの世界。
「ひーちゃんってばー」
そんな声が聞こえて、視界を変える。
あの子が消えて、周囲の風景がガラスを一枚隔てて見るように広がった。
目隠しをしていても、不自由はない。
「ひーちゃんー」
「・・・・・何だ?」
答えれば、隣に来ていた一人の神が何やら驚いた顔をする。
神々の中で喜怒哀楽を作るのに一番長けているのは、この男だろうと漠然と思った。
「あ、聞こえてた?」
聞こえてないつもりなら、何故呼ぶのか。
この男は、謎だ。
「何か用か」
「んー、何してるのかなって?」
「あの子を見てた」
「また?」
「また」
私が何をしているか、そんなことを聞きに来たのだろうか、この男は。
「・・それで、用は」
「ない」
暇なことだ、と、思う。
思ってから、己も同じかと内心で嘲笑した。
神など皆、暇なものだ。
何もできることなどないのだから。
用がないならもういいかと、あっさり思考から隣の存在を掻き消す。
視界もまた「普通」に戻せば、暗闇にぼんやりとあの子が見えた。
あの子は幸せとは言いがたい人生を送っていた。
哀れなことだと、思う。
視界に移るあの子は、大抵泣いている。
望まないことをさせられて、苦しんで。
自分を卑下し、存在を憎むことすらして。
けれど、あの子は人を嫌わない。
賞賛に値する。
あの子は自分を責める。自分を笑う。自分を、嫌う。
だが人を嫌わない。世界を、嫌わない。
あの子にとって世界はいつも美しい。
人は皆、愛しい。
驚嘆に値する。
だがそれが、あの子を苦しめているのだけど。
「ねー、ひーちゃんー?」
あの子が泣いている。
私はただ、私だけの世界で、それを見ている。
見ている、だけ。
私以外誰も居ない、暗闇の世界で。
「楽しい?」
よく、わからない。
反射的に、心中で答えた。
//カミサマ
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抱擁 |
2007年12月17日 23時31分
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「暗闇から、抜けたくはないですか?」
優しく問いかける声に、ぎゅっと手に力を入れた。
掌に爪が食い込むほど強く、手を握る。
ぼくには、無理なこと。
自由ではない、自由。
会うのも止めなければいけないと、思い続けていて。
迷惑をかけてはいけないけど、でも、ずるずると会いに行ってしまっていて。
もう、止めなければと。
思っていた。
思っていて、でも、ぼくは来てしまって。
そして彼は言ってくれたのだ。
「手を差し伸べたのは不動さんなのに、その手を引っ込めるんですか?」
だって思ってなかったのだ。
知らなかった。
そんな人が居るなんて、まさか。
こんな得体の知れないぼくを、見捨てない優しい人が、居るなんて。
優しすぎて泣きたくなる。
優しさがナイフのように心を抉る。
ぼくはきっと彼を不幸にする。
彼は優しくしてくれるのに、ぼくは何も返せない。
破滅を連れて来る、だけ。
やっぱりきっと来てはいけなかった。
会ってはいけなかった。
言っては、いけなかった。
後悔ばかりが押し寄せて来て、瞳から涙が零れた。
泣きながら、首を、振る。
すぐに手で顔を覆ったけれど、涙は止まってくれなかった。
いけない。
いけない。
いけない。
それは言ってはいけないこと。
それは思ってはいけないこと。
それは考えては、いけないこと。
泣くだけで何も言えないぼくに、彼は困ったように笑って。
ぼくの髪を撫で、そして子供にするように、抱き締めて背中を撫でてくれた。
暖かい人。
優しい人。
優しすぎる、人。
言ってはいけない。
言ったら。
だって言ったら、きっと。
彼はやろうとしてしまうから。
頭ではわかってる。
最良の選択。
最高の行動。
なのになのになのに、ぼくはいつも失敗を繰り返す。
「・・・・っ、ぅ、ひっ・・・く・・・・ぅ・・・・!」
嗚咽がどんどん止められなくなって、暖かさは涙を増加させて。
ぼろぼろと涙を流しながら、ぼくは。
「・・・・・・・たすけて・・・っ!」
言ってはいけない言葉を、言った。
ぼくはいつも。
最低の過ちを、繰り返す。
//21歳?(多分)
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一組の手袋 |
2007年12月16日 23時46分
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男物の手袋を、一組、買った。
最初に買ったのは毛糸だった。
手芸道具を売っている店に行けば色々な毛糸があって、少し迷った。
毛糸とイメージするものはそんなになかったので、意外に思う。
色は青み掛かった灰色。決めた理由は、綺麗な色だと思ったから。
そして一緒に編み棒や本なんかも買って、数日毛糸と格闘した。
仕事で呼び出される以外は部屋に篭って、ずっと頑張って。
出来上がったときは、とても嬉しかった。
けど。
出来上がったものを見て、苦笑した。
最初から手袋に挑戦したのが間違いだったのかもしれない。
マフラーとか、そういうのなら、まだ、きっと。
ぼくは編み上がった一組の手袋を、引き出しにしまった。
不格好で、網目はずれているし、あまり暖かくなさそうで。
それなら、きっと既製品の方がいい。
すぐに逃げるのは悪い癖だと思ったけど、簡単に変えられることではなかった。
彼なら、どんなに不恰好でも、何も言わずに受け取ってくれるとは、思うけど。
ぼくが、申し訳ない気分になってしまうと思うから。
贈り物を作るのも、選ぶのも。
何年ぶりだろうと思う。
心が揺れて、そして弾んだ。
もうすぐ、クリスマス。
あまりやらないと、言っていたけど。
受け取ってくれるだろうかと、買った手袋をラッピングして微笑んだ。
//21歳
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新たな発見 |
2007年12月13日 22時56分
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小さなお地蔵さんを見つけた。
今まで何度かその道は通っていたけど、お地蔵さんがあったとは知らなくて。
つい、立ち止まる。
石で出来た丸い頭。
陽に焼けて色褪せた、赤い前掛け。
大福が二つ供えてあって、ちゃんと見ている人かいるんだと、少し微笑ましい気分になる。
しゃがんで手を合わせて、暫らくそのお地蔵さんを眺めてしまった。
なんだか嬉しくなる。
昨日は知らなかったこと。
新しい発見。
世界は未知に溢れている。
世界はこんなにも、愛しい。
昨日とは違う今日。
今日とは違う明日。
変わり続けること。
変わらずあり続けること。
全てを内包して、世界は在る。
ぼくは、この世界が好きだ。
・・・・・・たとえ、もし。
世界はぼくを、好きでなくても。
//21歳
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