飲み込みの早い人 |
2007年12月11日 17時38分
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私が裏街道に堕ちたのは、必然だった。
昔から不良と呼ばれる存在で、「普通」とは少し違う道を歩いていた。
勉強が出来ないわけではなかった。
家庭に恵まれていないわけでもない、と、思う。
少なくとも両親共に健在だったし、家もあった。
たが、普通に学校に行って授業を受ける―――――そんな当たり前のことを、どうしても甘受できなかった。
盗み、恐喝、薬、詐欺に暴行。
それは犯罪であるとの分別を持って、自ら進んでそれをやった。
しかし、心が満たされることはなかった。
いつでも乾いて・・・飢えて、いた。
何かが足りない。
早い時期から、私はそれを悟っていた。
進んでスラムを根城にしていたジャンクキッズがマフィアに関わりを持ち、その末端を担うようになるのは自然な流れだった。
しかしそれでもやはり、私は渇えていた。
足りないのだ。
スリルも、弱者を蹂躙する満足感も、何もかも。
私は更に深みに墜ちた。
罪状は殺人に死体遺棄。
私は国外に逃亡し、そして国外でも当然のように裏の社会に身をおいた。
そしてそこで、「彼」に会ったのだ。
「・・・・・それで?」
私の隣に居た男が、そう聞かれる。
私には「彼」が何を問うているかすぐにわかったが、隣の男はわからなかったらしい。
「彼」が眉根を寄せた。
別に男を庇う気はカケラたりともなかったが、口を開く。
「彼」の望む答えを口にした私に、「彼」が初めて私という個人を認識したような目で私を見た。
否。
今ならわかる。
それは私という「個人」を認識したわけではなく、塵芥の中に「道具」が埋もれていたことに気付いたときの、視線だったと。
「彼」は笑った。
「ふうん。飲み込みが早いな?お前、名前は?」
「彼」はそう、私と言う道具の名称を聞いた。
その時から、私は「彼」の道具となった。
二番目に役立つ、一番使い易い道具に。
私は、私の求めていたものを知った。
「・・・・・イツキ。ボスからお電話です」
「繋げ。それから・・・」
「『時計』のことでしたら、既にロバートを迎えにやらせました」
「ならいい」
「彼」は、イツキは素晴らしかった。
私には思いつかない領域まで、貪欲に突き進んでいる。
私では、思いつかない方法で。
イツキの指示に従えば、私だけでは決して見えない風景が見れた。
私が求めていたものは、私に必要だったのは、私より優れた、私を超越した指導者、だった。
イツキは私に爪の先程の信頼も置いてはいない。
私とて、片腕などと慢るつもりはない。
私が使えなくなれば、イツキは何の躊躇もなく私を捨てるだろう。
それでいい。
それこそが、イツキ――――私の辿り着けない位置に立つ、存在。
「ディオ。急用が入った。花梨はお前が使え」
「はい」
私は自らの意志で、イツキの指示に従う。
イツキのため、などとは言わない。
全ては、自分自身のために。
私は私のしたいことをする。
//ディオ・カーレル
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自然の脅威 |
2007年12月10日 00時47分
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思わず、身体を竦める。
小さく悲鳴が漏れたけど、どうにかそれだけで恐怖をやり過ごした。
未来を視て恐怖を感じたのは、初めてではなかった。
けれどこれを同種の恐怖を感じたのは、まだたったの2度目だ。
前回は、土砂崩れだった。
家も車もまるで玩具のように、土に呑まれて崩れていく。
道も森も人も動物も区別なく、ただただ強引に、苛烈に猛威を振るう。
人の起こす恐怖とはまた違う、震撼するような、恐怖。
それは天災と呼ばれるもの。
神の怒りと、恐れられるもの。
「・・・・・・・20日後・・・」
自然の、脅威。
ぼくが視た2度目の天災は、噴火という形をしていた。
灼熱が地を舐め、人を焼く。
木々も皆炭と化し、静かになった街には灰が降り注ぐ。
世界が灰色に染められていく。
「20日後、山が、噴火する・・・!」
戦慄が浸透して、次に街の人を避難させなくてはと思考が転じる。
何も考えず踵を返したぼくの手を、誰かが掴んだ。
邪魔をしないでと、反射的に言いかけて。
「何処へ行く?」
刺すような冷たい目線と行動を縛る声に、全ての動きを止めた。
まさか、と、思う。
この場所の予知をさせたのはこの人で。
こんなの予測できるはずもないけど。
でも噴火はもう、20日後で。
まさか。
だって、そんな。
「噴火は20日後か。運がいいな」
耳が聞いた台詞を否定する。
運が。
・・・・いい?
何を言っているのか、わからなかった。
「マグマが、街まで、届く。街の人たちに、避難を・・・!」
赤い液状の火は土を這い、森を焼き、人を焼く。
街は死に、動くものはなく。
惨劇もなく、ただ命が散る。
それの何処が、運がいいのか。
「何も言う必要はない」
「でもっ」
「でも?」
「っ・・・!」
ぼくの腕を掴んだ手は、ちっとも揺るがない。
それどころかますます強くなって、ぼくの行動の自由を奪った。
わからない。
わからないわからないわからない。
わかりたく、ない。
「逆らう気か?花梨」
違う。
そうじゃない、逆らいたいわけじゃなくて。
言おうとするけど、視線を合わせた途端、全ての言葉は萎縮した。
喉の奥に張り付いて、外に出ない。
ああ駄目だと、思う。
悟る。
この人は、人が死ぬことなんて、どうにも思ってない。
「一儲けする。勝手に情報を漏らすな」
くらりと、目の前が暗くなった。
どうして。
どうしてこんなにも、この人との距離は、遠い。
同じ言葉を話しているはずなのに、どうして。
通じない。
「帰るぞ。・・・・そんなに気になるなら、何人死んだか結果だけは後で教えてやる」
浮かぶのは、嘲笑。
どこまでも、ぼくを愚かと蔑む、視線。
絶望が、心を塗り潰す。
どう、して。
知っているのに、ぼくにはまた、何も出来ない。
後日ぼくに齎されたのは、取り返しの付かないほどの、膨大な数の死者数。
有志に残る大規模な災害だったと、言う報せ。
//16歳
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終わりのないものなんてない |
2007年12月9日 23時52分
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今なら、ちゃんと言える。
以前なら決して信じられなかったけれど、今なら心から信じて、言えると。
そう、思った。
「・・・・終わりのないものなんてないよ」
微笑んで、告げる。
泣いている女の子の頭を撫でた。
永遠に思える暗闇も、いつかは晴れる。
冷たく寒い冬は、いつか暖かい春になって。
山のように積まれた仕事だって、いつかは終わる。
辛いときはある。
けれど、終わりも、ちゃんとある。
ぼくの暗闇は深く、濃かったけれど。
それでも光はそこに届いた。
だから、きっと。
「大丈夫。負けないで。いつか必ず」
何かの助けになるように、優しい言葉を贈ろう。
独りだと思わなくていいように、暖かい言葉を贈ろう。
辛さを乗り越えられるように、強い言葉を贈ろう。
大丈夫。
ぼくはきみを、信じてる。
どんなに深い暗闇も、どんなに凍える冬も。
いつか絶対、終わりがある。
ぼくが此処に居る。
それがその、証明になる。
「・・・いつか必ず、終わりはくるから」
それまでぼくが支えになるから、もう少し。
もう少しだけ、頑張ろう?
//27歳?(とりあえず21歳以降)
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朝だからと言い訳して |
2007年12月8日 23時02分
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くらりと、一瞬意識が何かに呑まれる。
昨日の「実験」の後遺症だろうか。何か薬を打たれたのは覚えているから、身体に支障が出ても不思議はない。
重度の貧血に近い感覚。思わず立ち止まったら、そこに声が掛かった。
「大丈夫ですか?」
顔を上げて、視線を声の方に向ける。
石段と鳥居が目に入って、何時の間にか神社の前まで歩いて来ていたことに気付いて苦笑した。
甘えている。
縋ってしまっている。
迷惑をかけることしか、できないのに。
しっかりしろと心の中で呟いて、「おはよう」と笑みを向けた。
「大丈夫。朝はちょっと低血圧で」
何でもないと、取り繕う。
そう思いたい、というの思いも、確かにあった。
心配をかけてはいけない。
心配してもらえる、資格なんてない。
いけないと。
そんな考えだけが、頭を占める。
ああ、ぼくはなんてずるい。
隠すのなら、来てはいけなかったのに。
「・・・朝から偉いね。掃除?」
一体ぼくは何をしているのだろう、と、思う。
心配してくれた人に、嘘を返す。
それはとても酷い行為で、自分に吐き気がする。
それでも何とか隠し通して、その場を離れて。
角を何度か曲がって神社が見えなくなった辺りで、近くの壁に寄りかかった。
ずるずると、力が抜ける。
ああ。
本当に。
ぼくは一体、何をしているのだろう。
//21歳
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命の重さ |
2007年12月7日 06時40分
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「此処」では、命は軽い。
哀しいことに、とてもとても、軽い。
昨日立っていた人が次の日にはいなくなっている。
そんなことは珍しくもなくて。
目の前で人が死ぬことも。
やっぱり珍しくなくて。
殺せと指示が下され、それが実行されることも。
珍しいわけが、ない。
麻痺していく。
嘆きが潰えていく。
何も思わなくなっていく。
死は事象ではなくなり、ただの数字と成り果てる。
ぼくのところまで届く死は、あまりないのだろうけど。
それでも尋常な感覚は、消え失せていく。
重いのは情報で。
重いのは金銭で。
重いのは権力。
命は皆、使い捨て。
それはだって、「彼」が、はっきりそう、言うから。
「使えるモノだけ使ってやる。使えないモノは死ね」
あとは右に倣えだ。
昔は違ったのだ。
ぼくを最初に買った先代の「ボス」は、いい人では決してなかったけど、「彼」ほど極端ではなかった。
少なくとも、ファミリーは守っていた。
ゴッドファーザー。
その名前を体言していたような、ボス。
それでもやはり、ファミリー意外の人間の命はとても軽かったけど。
「彼」の。
今の「ボス」の前では、命は塵芥に等しい。
利用する、利用する、利用する。
生も死も、利用できるモノは全て。
命の重さが、狂っていく。
重さを測る天秤の片側には、一体、何が乗るのだろうか。
//18歳
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