初々しい |
2008年4月9日 19時02分
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「あら、初々しいこと」
真新しいランドセルを背負って走る。
近所の顔見知りのおばさんが、そう言って頭を撫でてくれた。
走るぼくを見守りながら、両親が優しい顔で後ろを歩いていた。
「花梨、走ると危ないわよ?」
「転ばないようにな、花梨」
掛かる言葉も優しく、暖かい。
「だいじょうぶ!」
ぼくは根拠もなく、そう返した。
淡い記憶。
「小学校」が嬉しくて楽しくて、希望に満ち溢れていた幼い日。
もうほとんど葉桜の桜がひらひら散って、地面はまるで疎らに絨毯を引いたような有様だった。
春らしい日だった。
パステル色の、柔らかい、日だった。
ぼくはだから、春が好きだったのに。
それから少し後に放り込まれた闇色の世界で、桜は血溜りの上に不安定な波紋を描くことを知った。
花びらは皆、真っ赤に染まることを、知った。
春を嫌いにはならなかったけど。
ただもう、あの頃のように無条件に浮かれることはできない。
//6歳
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