地図にも載っていない |
2007年10月27日 23時33分
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日本には、「住宅地図」というものがある。
載せてもいいと許可をしたわけでもないのに、個人住宅の所在地が載っている地図。
年に一度は更新され、新しい住宅地図が発行される。
建物を建てる際に国へ届け出るそこから、情報は流れている。
だから事実上、住宅地図に載っていない建物は存在しない。
しかしそれは、「表向き」の、言い分。
法律なんて、やろうと思えば穴だらけだ。
「此処が日本での“本部”だ」
現に此処は、地図に載っていない。
どうやったかは知らない。
知りたいとも思わない。
しかし地図を見ても、この建物は存在しない。
住所もない。
手紙を出すときはさぞかし困ることだろう。
もちろん肉眼では見えるから、見掛けは普通のビジネスビル。
一歩足を踏み入れればそこは、マフィアの巣窟。
ぼくの目の前に居るこの男が「ボス」になってからファミリーには日本人が増えた。
だからか何なのか、一見して東洋系の人間が多い気がする。
構成員は大体黒いスーツ。
幹部に近い人間は、ダーク調の色合いの、個人仕立ての立派なスーツ。
どちらにせよスーツの男ばかりの、閉鎖的な社会。
此処では、何が起きても不思議じゃない。
そう。
密売も競りも殺人も、なんでもありだ。
此処は、一種の異世界。
「表」とは違う法のある、「裏」の世界。
「仕事の時は指定がなければ此処に来い。お前の指紋は入り口の指紋認証に登録してある」
ぼくは知っている。
それは、幹部と同じ扱い。
一般構成員は、中から開けてもらわなくては入れない。
刺さる視線は「特別扱い」への嫉妬からか、それとも野心からか。
つい、自嘲した。
ぼくはもう。
「この世界」から、抜けられることはない。
こんな「特権」、一度も欲しいなどと言ったことはないのに。
「―――喜べ。お前は全室フリーパスだ」
意訳すれば、定期的に、全ての部屋の未来を見ろと、そういうこと。
裏切りも工作も狙撃も、許す気はないと。
そういう、こと。
「・・・・・・・行けなくても、いいのに」
日本に作られた、地図にも載っていない「この世界」。
頭まで沈みきったぼくの身体はきっと真っ黒なのだろうと、そんなことを思った。
//21歳
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