安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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偽りの私
――――意識を、切り替えろ。

素っ気無い機械音。
耳障りな甲高い、一定の。
思わずびくりと身体が揺れた。

「不動さん?」

初期設定のまま変えていない着信音。
持たされている携帯は、通話中ぼくの居場所を「本部」のモニターに表示させる。
此処で、出るわけにはいかない。
出来る限り、可能な限り、此処から。
離れなければ。

「・・・、・・ごめん、帰らないと。・・・勝手に来て勝手に帰るなんて失礼だよね・・・本当、御免」

ああ、いけない。
切れてしまえば、それもまた危険だ。
「電話には必ず出る」――――それが自由である、条件の一つ。
手短に謝罪と退出の言葉を告げて、足早にそこを出る。
段々と余裕がなくなって、仕舞いには駆け足になって一歩でも多くあの場所から離れた。

巻き込むわけには、いかない。

絶対に。

巻き込みたく、ない。


「―――――――・・・・・はい」


さぁ、切り替えろ。
感情は要らない。
余計な情報は渡せない。

これは偽りの私(ぼく)。
けれどこんなもので巻き込まなくて済むのなら、幾らでも。


「・・・・・はい。今すぐに」


幾らでも、偽ってみせる。









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