安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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呼び声
ぼくを呼ぶ声が聞こえる。
それは聞き覚えのある声。
知っている人の声。

「花梨ちゃん」

可愛らしく笑う、女の子の、声。

「花梨ちゃん」

ぼくも名前を呼び返すけど、その声はぼくの耳には入ってこなかった。
彼女はぼくの声を聞いて、屈託なく、笑う。
そしてぼくに近寄って、笑顔のまま、一言言った。

「ねぇどうして、助けてくれなかったの?」

ぼくは。
何も、答えられない。

「花梨ちゃん――――・・・」

彼女の手がぼくの首に伸びる。
絡みつく指が、酷く鮮烈で。

ぼくは、彼女になら、殺されてもいいと、確かに思ったのだ。

例え彼女の全てが演技だったとしても。
ぼくは彼女に癒されたから、それで。
もうそれだけで、いいと、思ったのだ。

「――――――――・・・こよみ、ちゃん」

ぼくの呟いた声は、幻の少女には届かず空気に溶けた。









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