安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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体温計
この世の終わりのような声だった。
悲痛で悲嘆に呉れた、悲鳴のような。

「ない・・・ない。どうしましょう・・・・・!」

どうしたの?
と、ぼくは聞く。
取り乱している母は、一心不乱に引き出しを探しながら、独り言のようにぼくに答えた。

「体温計がないの・・・!」

父が熱を出して。
母が心配そうに、涙目で看病していた。
ぼくは一人でお絵描きをしていた。
父と母の仲が良いのはずっと知っていたから、そんなやりとりも然程珍しくはなくて。
ぼくも父は心配だったから、力を使った。

「体温計が見つかる未来」が視えるまで、母の未来を探る。
その未来は少しだけ先で、ぼくは立ち上がった。
未来を視たと気付かれないようにと幼心に考えながら、母の服の裾を引く。

「この前、あっちの上においたの、見たよ」

そして体温計は見つかって。
母にありがとうと撫でられて、ぼくは嬉しかった。

覚えている。
よく、覚えている、光景。



『―――――ありがとう、花梨。よかったわ』

テレビのスピーカーから、声が流れる。
何か、虚脱感のような、喪失感のような、判断のつかない感情が体を支配していた。

「面白かったか?花梨」

そのビデオは、隠し撮りだった。
ぼくの瞳が青く変わり、失せ物の位置を告げる様子が、一部始終写っていた。
ぼくの後ろで、ぼくの「持ち主」が目を細める。

「理解したか?」

それは。
ぼくを此処に売るために、両親がぼくの能力を証明しようと提出した、テープの一部だった。

理解、する。

もう、ずっと前から。

暖かい、ぼくが「家族」と無条件に信じていた、日常の時から。

――――――・・・二人はぼくを売る気だった。


感じていた「暖かさ」、なんて。

全ては。


「帰る場所なんて、端からない」


まぼろし。









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