安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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どんな病も治せる薬
ヒトとは利用するものだ。

「―――――死ぬ人を、探せ?」
「ああ。耳は付いてるんだろう?二度は言わせるな」
「何をするつもり?」
「ちょっとした慈善事業だよ。聞いてどうする?どうせお前がやることは変わらない」

コレは今現在で、尤も使い勝手のいい道具。
連れて来られた病院で不審そうに俺を見て、けれど「仕事だ」の一言で動くモノ。
嘲笑は、いつも尽きない。
ただ最近は、少しイラつく。
いつも通りの気色悪い的中率。それはいい。
「仕事」と言わなければ動かない効率の悪さが、イラつきの原因だった。
もういい加減、悟れよと、思う。
躊躇いも拒否も逡巡も、どうせ意味はないのだ。
手間掛けさせずに、さっさとやればいい。
逃げ場はない、反抗は出来ないと、知っているのに無為に足掻く。鬱陶しい。
少しずつ調教してはいるが、いい加減それも面倒になってきた。
暫く焦点の合わない目で未来を見ていた道具が、視線を俺に固定して口を開く。

「・・・、・・・あの人とあの人と、こっちの人。それから、あの子」

示された4人の病人。
ああご愁傷様と、そんな感想を抱きながら口の端を持ち上げた。

――――まずは、ガキからか。

交渉相手はもちろん親。
少し周りを見れば母親が見つかったので、使い終えた道具をその場に置いて近寄っていく。
逃げるなとは、言わない。
それこそアレを買ってから今までに掛けて、「逃げられない」と調教してある。

「・・・あの、済みません。失礼ですが、あの子のお母さんですか?」

表情は「哀れみ」。
知らない人間に警戒する母親に、数秒「逡巡」を見せ次に「真摯」な目を向ける。
この程度の偽装で少しは警戒が薄れるのだから、本当に笑いが止まらない。

「あの子、あまり長くありませんね?実は私も昔重い病で、それを思い出して」
「っ・・・。そう、ですか。あの、ご用件は」
「あの子を助けたいと、思いました」
「・・・・・・冷やかしなら、帰ってください」
「いいえ、違います。私も重い病だったと言いましたよね。一度は死に掛けたくらいだったんです。でも、今は健康です」
「・・・・・・・・・・・おめでとう御座います」
「どうしてだと思います?」
「・・・・あの」
「実は私、“どんな病も治せる薬”、持ってるんです」
「!」

藁にも縋るとはこのことだろう。
愚かしいことだ。
そんなにガキを大切にしても、何の得もないのに。

「信じられないかもしれませんが・・・騙されたと思って、使ってあげてください」
「・・・下さるんですか?」
「ええ。ああただ、一応秘密なもので、その旨をサインして欲しいんですが」
「・・・・・・・・・・・それだけで、いいんですか」
「私があの子を助けたいだけですから」

俺が欲しいのはそのサイン。
なくてもどうとでもなるが、あれば格段に便利な証書。

「真摯」と「哀れみ」と下手の態度に、「それくらい」と安易に手を出す。
本当に、どいつもこいつも面白いくらい、いい反応だ。

「―――――有難う御座います。助かりました」

さぁコレで、あの死体は俺の物。

ああ、まだ生きてたか。

「早く治してあげてくださいね」なんて言い残してその場を去る。
もちろん、置いておいた道具はちゃんと回収した。
俺と母親のやりとりを聞いていたらしい道具が、訝しげに呟く。

「・・・・・・・どんな病も治せる薬・・・・?」

薄く、笑う。

嘘ではない。
少なくとも、俺にとっては。

「死ねばどんな病気も進行しないだろう?」

薬を使っても使わなくても、どうせすぐ死ぬ。
欲しかったのは、その後その死体をどう扱っても構わないと偽装するための、直筆サイン入りの紙。
ただ焼くんじゃ勿体無いから、俺が金に換えてやる。

「・・・・どこが慈善事業」
「リサイクルってのは、立派な慈善事業だろう?」

唾棄するように吐き出す台詞に、肩をすくめた。

どうせ死ぬやつを使ってるだけ、優しいと思うがな。









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