安 蘭 樹 の 咲 く 庭 で

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静寂の中の音
ぴちゃん。

それは規則的な音。
それは継続的な音。

暗闇の中で、静寂の中で、その音だけが耳に響く。

視界が利かないのはキツく縛られた目隠しの所為。
それしか音がないのは、此処がぼくともう一人以外誰も居ない密室な所為。

ぴちゃん、ぴちゃん、と。

それは水が立てる音。

それは、液体が液体の中に落ちて、起こる音。

視界が真っ暗でも。
ぼくには、その部屋の映像が視えた。
1秒先のその場所の未来の画が、視えていた。

ぴちゃん、ぴちゃん、と。






ぼくではないもう一人の人の手首から、赤い液体が雫となって落ちる様が、視えていた。






そしてそれが。

途切れる、瞬間も。

動脈を切った手首から流れる血が、途切れるという意味は、流石にわかる。

つまり、この人は。
ぼくと同じ密室に閉じ込められて、数刻前に手首を切ったその人は。

もうすぐ、死ぬのだ。









ぼくは道具に堕ちても、「生きる」ことを選び。

彼は「生きる」ことを捨てても、気高き死を選んだ。


ああ誰か、教えてください。









ねぇ。

――――――いったいどちらが、正しかったの?









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